大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和36年(く)31号 決定 1961年8月24日

少年 M

主文

原決定を取消す。

本件を神戸定庭裁判所に差し戻す。

理由

本件申立の理由は、少年の父Fは現在○○米穀株式会社の社員として姫路市○○町にある同会社の販売所長を勤め、温厚、実直、精励で姫路市長から表彰されたことがあり、母きよ子も温和で、家庭は円満であり、少年は中学二年ごろまでは善良で学業にいそしんで成績良好であつたが、不幸にも居住地域の不良の友人らに誘惑され非行を重ねるに至り、非行の前歴があるのに再び今度の非行をしたため、少年院送致の原決定を受けるに至つた。しかしその後右会社社長○野○市は右事実を知つて同社役員と協議の上少年を右会社の職員として採用することに決し、又自宅である姫路市○○町の前記米穀販売所の離れ座敷に少年を起居させ、昼は父とともに右販売所に勤務させ、夜は自ら温情をもつて教化善導することを期しており、近隣に住む保護司北円次もまた○野○市と協力して少年の保護指導に当ることを約し、かくて少年をして不良徒輩と交ることを絶ち、更生させることが期待され、少年を中等少年院に送致するよりはその矯正に実効があると考えられ、原決定は著るしく不当であると信ずるからその取消を求めるというのである。

よつて一件記録を調査すると、少年は単独又は数名とともに年少者を脅迫して数回に各現金一〇〇円を喝取し又年少者を殴つて暴行を働いた非行等により、昭和三十六年四月一日神戸家庭裁判所において保護観察に付する旨の決定を受けたのに、更にその直後である同年五月七日D、Yと共謀して年少者から現金三〇〇円を喝取する非行をし、ほかに昭和三十五年十月ごろ加古川市内において万年筆一本を拾得し、自己において領得したという非行があるとして、中等少年院に送致する旨の原決定を受けるに至つたのであるところ、右恐喝非行当時少年は定時制の工業高等学校へ通学していたが、勉学意欲はなくむしろ就職を希望していたもので、従来の非行はその住居の環境及び交友関係の不良に起因していたのであることが認められる。しかし本件抗告申立書添付の疏明書類によると、原決定後父Fがその勤務する○○米穀株式会社社長○野○市に少年にかかる前記事情を打ち明けて相談した結果、少年を同会社の職員として、父Fがその職務に従事する○野○市の自宅である右会社の販売所に父とともに働かせ、且つ○野方離れ座敷に起居させて夜間は少年を自己の監督下において、指導すべき方針を定め、近隣に住む保護司を勤める北円次も協力することに同意し、よつて少年をして従来の環境、交友関係から断絶させ、○野らの温情ある指導により更生させることを期待しうる状況にあることがうかがわれ、これによることが、中等少年院送致によるよりも、少年の矯正補導に適切な方法であると考えられる。しかるに原審がこれらの点について追求審究する努力を尽した形跡は記録上全然見当らず、少年を中等少年院に送致することとしたのは著るしく不当というほかはなく、本件抗告は理由があるから、少年法第三三条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 小川武夫 裁判官 柳田俊雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例